上場企業株式の公開買付(TOB)規制について

上場企業株式の公開買付(TOB)規制について

短期間で大量の上場株式を購入する場合、未上場企業株と異なり、購入する際に様々な規制を受けることになります。きちんとルールを理解したうえで株式の取引を行う必要があるため、大量の資金を運用されている方などは意識をしておく必要があります。

なお、株式公開買い付けはTOBと略され、Take-Over Bitの略称です。TOBを行う際には、株式の買付け行う旨を公告し、証券取引所を介さずに不特定多数の株主から株式を買い集めます。公告を行うことで、会社支配権等に影響を及ぼし得るような証券取引について、透明性・公正性を担保することが制度の目的とされています。また、TOBを実施する側としての目的は、企業の株を一定以上買い占め、議決権を一定数以上に増加させ、企業の経営権を得ることがほとんどです。TOBをおこなう企業は、不特定多数の株主に対し、いつまでにいくらの株価で何株を買い付けると明示する必要があります。

TOBを行う際の買い付け価格は、市場の株価より高値(プレミアム)で売買されることが一般的です。一般的には20~40%程度のプレミアムがつけられることが多くなっています。市場で株を大量に買い集めると、需要と供給のバランスが崩れ、株価が想定以上に上昇するため、TOBを利用して買取株価を固定することでTOBを行う企業にとってもメリットはあります。

一方、TOBを公表することで、TOBを行う企業以外に買い付け対象の企業の経営権を求めている企業がさらに高い価格でのTOBを行ったり、TOBをされる企業がTOBに反対の表明(敵対的TOB。反対に企業が賛同する場合は友好的TOBとされる)をしたり、または市場でTOBをされた企業が注目されて市場価格がプレミアム価格を超えてしまってTOBで株が集まらなかったりと、目立ってしまうことによって株式を一定数まで購入できないというリスクもありますので、その点も踏まえてTOB規制に引っかかるような短期的な大量購入を行う必要があるのかについて考える必要があります。

公開買付(TOB)規制が適用される条件

取引所などに上場している有価証券報告書の提出が義務付けられている株式会社の株式を、市場外で一定数以上購入する場合、原則として公開買付けを行う必要があります。具体的には、金融商品取引法27条の2第1項に、以下の事由に該当する場合には公開買付けを行う必要があると強制しています。

5%基準

取引市場外で、株券等の買付け等を行った後に、その後の株券等所有割合が5%を超える場合。ただし、5%を超える場合であっても、60日間で10名以下から買い付けを行なった場合は、「著しく少数の者からの買付け」とされ、公開買い付けは不要となります。(同27条の2第1項1号)

3分の1ルール: 取引市場外での売買

60日間で10名以内の者から、取引市場外で買い付け等を行なった後に、その後の株券等所有割合が3分の1を超える場合。前述の「著しく少数の者からの買付け」の場合は5%基準は除外されていますが、株券所有割合が3分の1を超える場合は、当該株主によって特別決議を否決することが可能になるため、この割合を超える場合は少数の者から買い付けでも公開買い付けが必要とされています。(同27条の2第1項2号)

3分の1ルール: 取引所市場内の特定売買等

取引市場内の取引のうち競売買以外の方法(特定売買等)、いわゆるToSTNeT取引等で買い付けを行い、株券所有割合が3分の1を超える場合。ToSTNeTでの立会外取引は取引市場内の扱いですが、その性質は取引市場外での直接売買と近いため、同じく公開買い付けが必要とされました。(同27条の2第1項3号)

3分の1ルール: 急速な買い付け

前述の3分の1ルールに加え, 90日以内に、下記に記載する「急速な買い付け」を行う場合。

  • 総数の10%を超える株券等を買付け等又は新規発行取得により取得している。
  • 総数の5%を超える株券等の買付け等を取引市場外または特定売買等(ToSTNeT取引等)で行っている。
  • 買い付け又は新規発行取得後に、株券等所有割合が3分の1を超えている。

この規制は、例えば取引市場外で32%の株式を取得して、その後に取引市場で2%を買い付けることにより、3分の1ルールから除外されてしまうのを防ぐために規定されています。「急速な買い付け」は3ヶ月間の一連の取引を合算した規制であり、本規制が当てはまる場合は、3ヶ月間の買い付け全てを公開買い付けによるものとする必要があります。(同27条の2第1項4号)

他者の公開買い付け期間中の大株主による買い増し

3分の1超をすでに保有する株主は、他者が公開買い付けを行っている期間中に5%超の買い付けを行う場合。これは公開買い付け実施者と他の買い付け者との規制を平等にするために設けられており、公開買い付け中に大株主の5%超の買い付けは、対応TOBによるものでなければいけないとされています。(同27条の2第1項5号)

その他

その他政令で定める場合も、公開買い付けを行わないといけない場合が規定されています。買付者の特別関係者による買付け等で、買付者による「急速な買付け」と同視できるものなどが該当します。

公開買付(TOB)の方法

公開買付規制に従ってTOBを行う手順は以下の通りで、きっちりとルールを守って行う必要があります。きちんと押さえておきましょう。

STEP1:公開買付開始公告と公開買付届出書の提出

公開買付を開始する場合は、氏名などの個人情報、株の買付けを行う旨や目的、買付期間などを公告します。一般的に買付けは、市場価格の20~40%程度のプレミアムを付けて行われます。また、公開買付を行った日には、財務局へ公開買付届出書を提出します。公開買付届出書には買付価格、買付予定株券、公開買付の目的を記載します。公開買付の期間は、20日~60営業日と決められています。公開買付届出書の提出後でなければ、勧誘などはできません。

STEP2:買収先企業の意見表明報告書の提出と回答

公開買付公告が行われて10営業日以内に、公開買付に関する意見を書いた意見表明報告書を財務局に提出します。内容に質問が記載されている場合、5営業日以内に質問に対する回答を対質問回答報告書に記して財務局へ再び提出する必要があります。

STEP3:公開買付説明書の交付

公開買付届出書と同じ内容が書かれた公開買付説明書を作成し、売却予定の応募株主に交付します。

STEP4:公開買付報告書の提出

公開買付期日最終日の翌日に、TOBの結果を公告します。そして、公開買付報告書を財務局に提出して、公開買付の手続きが終了します。

中止の場合:交付買付撤回届書の提出

TOBを取りやめたいときは、取りやめ理由などを明らかにしたうえで公表する必要があります。

違反した場合

公開買付が義務付けられている状況で、所定の手続きにより公開買付を行わなかった場合、5年以下の懲役若しくは 500 万円以下の罰金の刑事罰となります。また、違反者のみでなく、違反者が代表者、使用人になっている法人に対しても罰金刑が課されます。また、刑事罰とは別に課徴金の対象にもなることがあり、課徴金の金額は買付価格 * 買付数量 * 0.25 と規定されています。

違反して取得した株式は有効か?

公開買付が義務付けられている状況で、違反して株式を取得した場合、その有効性に関しては明確に定められていません。状況次第ですが、違反して取得した株式でも取得自体は有効であり、その議決権は取得者が行使できると解釈される場合もあります。