バリューアットリスク(VaR)によるリスク管理

バリューアットリスクとは

バリューアットリスク(VaR)とは、マーケットリスクを測定するために最も利用されている指標の一つです。市場が自分に不利な方向に動いた場合に、保有するポートフォリオにどの程度の損失が発生する可能性があるのかを統計的に示します。例えば「信頼区間99%、保有期間10日に対してVaRは100万円である」とは、今後10日間で損失を被ったとしてもそれは99%の確率で100万円以内であるということを示します。VaRは株や債券など特定の商品のマーケットリスクを測るのではなく、多種多様な商品で構成されるポートフォリオ全体のマーケットリスクを測ることができます。近年、様々な原資産をインデックスとするデリバティブが登場し、これらのデリバティブによるポートフォリオ全体の管理が必要になってきたことがVaRが広く利用されるようになった要因の一つとされています。VaRのメリットとしては以下が挙げられます。

  • 異なる原資産(株・債券・為替等)にポートフォリオの内容が分散している場合に、それらのリスクを統一的な尺度で計測できる
  • マーケットリスクの総量を単一通貨で表現できるため分かりやすい

バリューアットリスクの計算方法

では、VaRは実際にはどのようにして計算されるのでしょうか?以下の3つの手法が代表的な手法です。

分散共分散法(デルタ法)

マーケットリスクのリスクファクター(金利や為替レート等)が正規分布にしたがって変動し、その変動に対する資産の現在価値の変化額(感応度)が一定であると仮定してVaRを算出する手法です。この手法は計算が簡単であることがメリットですが、一方でリスクファクターの変動が正規分布に従うとは限らないというデメリットがあります。実際にリスクファクターの分布が裾野の広いファットテイル(正規分布からは想定できないような極端な変動)の場合、分散共分散法によるVaRはリスクを過小評価してしまいます。また、感応度が一定とならないような商品がポートフォリオに組み込まれている場合もリスクを正しく評価できません。

ヒストリカルシミュレーション法

ヒストリカルシミュレーション法は過去のリスクファクターの価格変動を実際に利用して計算する手法です。過去に発生したリスクファクターの変動のパターンが将来も同じ確率で発生すると仮定して、ポートフォリオの損益の分布を計算しそこからVaRを求めます。分散共分散法のように特定の分布を仮定するのではなく実際の変動データに基づく分布をそのまま利用できることがメリットですが、データ数が少ないと顕著に計測結果が不安定になってしまうというデメリットがあります。

モンテカルロシミュレーション法

モンテカルロシミュレーション法では、コンピュータを用いて疑似的に乱数(サイコロのように次に何が出るかわからないランダムな数)を生成し、これを利用してリスクファクターの将来の予想値を大量に生成します。こうして得られたリスクファクターの将来の分布からポートフォリオの損益の分布を計算してVaRを求めます。利点としては、リスクファクターの分布として正規分布以外を用いたり、分散共分散法で計算できなかったような感応度が一定とならないような商品についても対応が可能なことですが、複雑な計算を行うため計算に膨大な時間がかかってしまうというデメリットがあります。

バリューアットリスクの限界

VaRによるリスク管理には上述の通り様々なメリットがありますが限界もあります。それは、VaRはあくまで過去の観測データに基づき計測される推定値であるため、リーマンショックのような大きな変動が観測期間に含まれていない場合、そのような事象の変動を捉えられずにリスクを過小評価してしまう可能性があります。そのような大きな変動に対するリスクを計測するため、VaRと並行してストレステストの実施が有用です。ストレステストでは過去に発生した大きなショックのシナリオ(リーマンショック後の株価変動、各リスクファクターの過去10年間の最大変動等)をそのまま利用したり、今後発生し得るであろう大きな変動(金利が1%上昇する等)を仮定して損失額を計算することでVaRで補足できない大きなショックに備えます。

また、VaRのもう一つの欠点としてVaRはある確率における損失の限度額を示しますがVaRを超えるような損失がどの程度発生するかは分からないという点が挙げられます。この欠点を補うために近年は期待ショートフォール(ES)という指標が用いられることが増えています。ESはポートフォリオの損益分布を計算した後、VaRを超える損失についてその平均を求めることで計算できます。ESを用いることでリーマンショックのような確率は低いが発生すると巨大な損失が発生するようなリスクも補足することが可能となります。