上場企業の第三者割当増資について

上場企業の第三者割当増資について

上場企業が第三者割当増資により、特定の第三者に新株式(自己株式を含む)を割り当てて増資を実施する場合、取引所は以下の上場廃止基準、企業行動規範、適時開示に関する規定を定めています。

これは、取締役会決議により第三者割当により特定の第三者に対して新株式を割り当てることにより、既存株主の持ち分が著しく希釈化されたり、経営者の判断で支配権に影響を及ぼす株主構成の異動が可能となるリスクが存在し、実際にリーマンショック以降に、投資者の信頼を毀損する不適切な第三者割当の事例が話題になったことを受けて、取引所が規制を強化して規定が新設されています。

下記に第三者割当を企業が実際に実施する場合に、取引所から求められていることをまとめています。よく、第三者割当のプレスリリースが取引所や企業のウェブページに掲載されていますが、下記の観点から注意してみてみると面白いかもしれません。

第三者割当増資を実施するメリット

多くの場合、上場企業では成長のための前向きな資金調達であれば、証券会社が公募増資を企業に提案し、それによって広く投資家から資金を集めることが多くなっています。一方、公募増資を行う際には調達した資金を使うことで企業価値が向上しなければ、発行した分の利益が希薄化するために株価が下落してしまいます。そのため、証券会社では企業の成長性などを判断したうえで株式を引き受けることを行っています。赤字企業で公募増資によっても回復が見込まれない場合などは公募増資ができないケースがあります。そのほかにも、十分な市場での流動性(取引)がなかったりと公募増資には一定のハードルがあります。

そこで、第三者割当増資では投資者が資金の拠出をするだけの理由があれば足りるために業績の悪い企業でも第三者割当増資が行われることが多くなっています。また、第三者割当増資の際には普通株だけでなく、新株予約権や新株予約権付社債など、投資家に一定程度の有利な条件での設計を行うこともできます。そのため、業績の悪化している企業に対して、特殊な条項などを付けてリスクを減らした有価証券での第三者割当増資を行って投資をするファンドもあります。

このように、第三者割当増資は公募増資を行えない企業にとっての選択肢として重要なものになっています。また、第三者割当増資を行うケースはほかにもあり、資本業務提携を目的としたもの、買収の防衛を目的としたものなどです。上場企業であれば市場から調達することもできますが、様々なメリットがあるため第三者割当増資は活発に上場企業の間でも行われています。

今回は、その第三者割当増資を行う際に抑えておく必要のある規制について説明します。

上場廃止基準

①希釈化率が300%を超えるときは株主および投資者の利益を侵害する恐れが少ないと取引所が認める場合を除き、上場廃止となります。

②第三者割当にて支配株主が異動した場合、その事業年度末の翌日から起算して3年以内に、支配株主との取引に関する健全性が著しく毀損されていると取引所が認める場合は上場廃止となります。

企業行動規

上場会社が第三者割当を行う場合で、希釈化率が25%以上となるとき、または支配株主が異動することとなるときは原則として、①または②を経ることを企業規範の「遵守すべき事項」として規定しています。

①経営陣から一定程度独立したものによる第三者割当増資の必要性及び相当性に関する意見の入手

②株主総会の決議などの株主の意思確認

ただし、当該割り当ての緊急性が極めて高いものとして取引所が認めた場合は除きます。

適時開示に関する規定

上場会社が第三者割当を行う場合、以下について適時開示を求めています。

①割当先の払い込みに要する財産の存在について確認した内容

②払込金額の算定根拠及びその具体的な内容(取引所が必要と認める場合には払込金額が割当先に特に有利ではないことに係る適法性に関する監査役または監査法人の意見等を含む)

③企業行動規範の①による意見を入手する必要がある場合はその内容。(企業行動規範のただし書きの場合はその理由)

④その他、投資判断上重要と認められる事項

確認書の提出

割当先が反社会的集団と無関係なことを確認する確認書を作成後、直ちに提出する必要があります。

※希釈化率:新株発行前の発行済株式に係る総議決権数に対する、当該第三者割当による株式(潜在株式を含み、転換価額が可変で下限が設定されている場合は下限転換価額ベースで計算)に係る議決権数の比率)